犬神サーカス団単独興行(ワンマンライブ)『結束在黒夜2』からの手紙/こもだまり

日時 =2000/05/06(土) PM3:00/PM7:00開始
ライブハウス=三軒茶屋 HEAVEN'S DOOR
出演=犬神サーカス団
     犬神 明(Dr.)
     犬神情次2号(G.)
     犬神ジン(B.)
     犬神凶子(Vo.)

    昭和精吾
    こもだまり
    諏訪友紀

第一部 「仮面劇・犬神」(作・寺山修司)
第二部 「寺山修司の世界/短歌『燃ゆる頬』~市街劇『人力飛行機ソロモン』より抜粋」
第三部 「犬神サーカス団/通常ライブ」

ジァン・ジァンでの最終公演(昨年12月)で昭和さんが「東京ではしばらくお休みして・・」とか「ジァン・ジァンで毎年『われに五月を』やってきたけど来年のゴールデンウィークはもうここもないし、十何年ぶりに世間並みにお休みをとりたいですね」なんて発言をしたら一部では『俳優引退宣言』ととられたようだが、事実はそうではなかった。

「来年の寺山さんの命日あたりに、また犬神サーカス団と『仮面劇・犬神』をやることにしたよ」
1999年12月、ジァン・ジァン最終公演を終えて、事後処理に昭和さん宅へ伺った時、昭和さんは黒ビールを飲みながらそう言った。 「だからこもだ、そのへん空けといて。また、照明頼むよ」
しかもまたゴールデンウィーク中・・・。


去年、犬神サーカス団とは3本共演したが、その記念すべき最初の共演が1年前のこの企画だった。昭和さんが「芝居の内容わからないと照明できないからさ、こもだやってよ」と言うので、経験なしで照明スタッフをやったのだった。(去年のレポート参照)
「去年はお客さんが入り切らなかったろう、だから今年は昼夜二回やろうと思って、明から会場に聞いてもらってる。中身も去年と同じじゃあ芸がないから、今度は明たちにも詩を読ませようと思うんだ。『飛ぶ』っていうテーマで、少年航空兵の兄弟でね、その後俺の『国家論』でね」
さらに言うには「その前に、こもだと諏訪でさ、青森でやった短歌の掛け合い、あれやろう。あれで、『仮面劇・犬神』の世界を終わらせて、詩につなぎたいんだよね」。
なんと今年は照明だけじゃなく出演もあるらしい。壮大な計画に、果たしてどこまで本当になるやら、と思いつつ、犬神サーカス団側の情次さんと連絡を取る。

「いやあ、昼夜二回公演って話なんですけど、きっついですねえ(笑)」
「ライブハウス的にですか?」
「いや、僕ら的に。早起きと体力が」
「なんだか詩をやるらしいですね」
「昭和さんからもうもらってるみたいなんですけど僕は詳しく知らないんですよ」
去年夏、『時代はサーカスの象にのって』で犬神サーカス団のメンバーは4人とも役者デビューを果たし、ジンさんも明さんも長い台詞を覚えてしゃべったのだが、情次さんだけ「楽士」という役回りで台詞が一つもなかった。
「今度の兄弟の詩は、情次さんも読むんですよね?」
「いや、僕はまた演奏のみです。明とジンでやる感じですよ」
ということだが、『仮面劇・犬神』で1シーン増えているのでジンさんも情次さんも一役増えている。
明さんとジンさんは詩をやる。凶子さんは去年と一緒で三役(女詩人・歌・月雄)。稽古が結構大変な感じ。

【稽古】そんなうちに話は進んで、日曜日に稽古が始まった。昭和さんに敬意を表してか、昭和さんの住む江東区で午後1時から稽古。
ライブを見に行ってはいても、当日はなかなか会えないので、普段着を見るのも話をするのも久しぶり。いつも夜からスタジオ入りの犬神サーカス団としては異例の早い時間、しかも稽古場まで1時間以上かかる所に住んでいるので、皆とても眠そうだった。凶子さんは去年初めて会った時と同じ黒ずくめでパンツとスカートを重ね着、靴はちょっと厚底ではなくなっていた。「急いでるときとかに走りづらいんですよね」とのこと。
明さんは眉がなくなっていた。ジンさんは髪を切っていた。でも演奏中に揺れる用にか、前髪は長めだった。情次さんは髪が伸びていて、ギターがおニューだった。前のは真っ白のだったが、今度は赤白。赤が好きなのだそうだ。

2回目の稽古からスワちゃんも参加。スワちゃんは黒子。道具を出したり、シロ(犬)を動かしたりする。忙しくて大変だ。12月にやった手話の動きを昭和さんは気に入っていて、使いたいというので新しく組み替えてスワちゃんにやってもらう。私は照明スタッフとして稽古に行くことなんて他にないし、演奏を間近で聴けて見られるので楽しい。
昭和さんは去年のビデオで研究した結果、お面のインパクトが強すぎるので歌のシーンでは後ろを向いていることにした。黒子が椅子をくるりと回す。
何回か稽古をしたら、新しいシーンもうまくいった。特に明さんとジンさんの詩が、かなりレベルアップした。
最初は情次さんが演奏をしていて、ふたりとも詩の朗読だけしていたのだが、昭和さんが「覚えたら読みながら演奏できますか?」と言い、やってみたらとてもしっくりきた。なんていうか、しゃべろう、という感覚じゃなくなるのか、うまいこと力が抜けるのかもしれない。とにかく、演奏をしながら語ることになったら「演奏するみたいに語ってる」のがかっこよかった。さすが音楽やってる人たちだ、と当たり前のことを実感した。そしてそれを提案した昭和さんにも恐れ入った。
4月末に情次ニューギター盗難事件があり、去年と同じ白いギターでの演奏が決まったりしつつも、5月3日に午前11時から3時まで通し稽古を含めて最終稽古をし、では当日よろしく、ということになった。

【仕込み】本番前日。その日のライブが終わってから夜中11時から深夜まで仕込み。
照明が少し心配なので、同行させてもらった。
ライブハウスの照明スタッフさんはユリアさんという短パンから見える足から腕から背中からタトゥーだらけの背の高い男の人で、ちょっと打ち合わせたところ「色とか振り(照明の向き)とか変えるのあれば明日言ってください、僕も朝から入るようにしますし、すぐ出来ますから」とのことなので、照明は思い切って明日にして時間がかかりそうな会場装飾を手伝うことにする。犬神サーカス団はワンマンの時はいつも会場をばっちり装飾する。病名を印刷した紙とか「安産」と書いた半紙とか、卒塔婆とか、縄とか。明さんが用意してきた黒い紙に赤で「犬」と書かれたやつを縄で天井に吊る作業を請け負い、延々縄に文字を張り付け、脚立で縄を吊った。私はそれだけで時間切れになってしまった。少し作業を残して、ではまた明日、と帰る。

【当日/劇場入り】去年は一応犬神サーカス団の雰囲気に合わせたつもりで黒いロングのスリップドレスに白いくしゅくしゅのブラウス、ブーツを履いた。凶子さんが「去年の服好きですよ」と言ったのでせっかくだから同じ服で。今年は出演もあるので一応黒っぽい方がいいかと、黒いカーディガンを合わせた。

11時劇場入り。私も照明に入り、どれがどのフェーダーか確かめる。今年は去年より「は」綿密な照明プランを立てたのでいっこいっこつけて合う奴を探す。欲しいのは昭和さん、凶子さん、ジンさん、情次さん、明さんそれぞれ単独のスポット。別々にひとりでしゃべるシーンがあるので、全員単独で抜けるようにしておきたい。あとは歌とか黒子のシーンでバンドの4人だけフォローする明かり。歌のイメージで格子みたいにクロスする明かり。
見てみると、ボーカルは割と頭上近くから狙ってる黄色2本と、クロスする4本の白(イメージ通り!)。前明かり(顔を明るくする)が黄色というかセピアっぽい色、全体を横から照らす赤。後ろから赤の3本、青の2本、下手前(昭和さんの座るあたり)と上手前(女詩人)狙いに単独で行くのは黄色。ギターとベースあたりに紫が落ちてる。ユリアさんといろいろ話したら「全体を照らすやつをエメラルドグリーンにしてみていいですか?こんなのが似合うと思いますよ、おどろおどろしくって」とユリアさんいい、いい感じになる。ユリアさんはよく犬神さんの照明をやっているそうで話が早かった。前面の明かりをつけないと凶子さんの顔が多少暗い。でもそれをつけると全体を照らしてしまうのでのぺっとしてしまう。心配だったので聞いてみたら「このバンドは雰囲気ものなので気にならないですよ、他の明かりでフォローされてるし」と言ってくれた。
明さんから「バックサスは座って見るとかなりまぶしいので芝居中は控えた方がいいかも知れません」とアドバイスを受けた。通し稽古をみてもらってユリアさんと相談して決めることにする。
フェーダーにビニールテープを貼って「赤3本」「姑」「明」「ジン」「情次」「白クロス」「月雄」「青」などと書き、振りと色をいくつか変えてもらい、仕込み終了して、通し稽古。私は短歌の掛け合いはオペ室でやるつもりだったけれど、なんと舞台まで花道を歩いて行くことになった。また道がふさがることは目に見えてるのに・・・不安だ。バックサスはユリアさんが「大丈夫でしたよ」というので加減してつければいいだろうということになった。

【当日/客入れ】 客入れ開始前、明さんに「客入れの照明、こんなのとこんなのとこんなのだったらどれがいいですか?」と聞くと「人がいないときは色がないうほうがいいですね。4人のオブジェが入ってきたら一人はいるごとに一色増やす感じで」と考えてたより難しい注文を受ける。聞いてしまったので仕方ない、やることにする。
お客さんが入り始めたけどまだやることがないので、音響スタッフの佐藤さんとユリアさんが煙草を吸い始めたので、(吸わないくせに)私も一緒になって吸いながら時を待つ。
家族写真オブジェ役の「喪服に眼帯をした母親」が花道を通って舞台へ。明かりをゆっくり緑に変える。
しばらくして「軍服を着た父親」が舞台へ。赤に変える。
「学生服の兄」が舞台へ。青に変える
「歩行困難のセーラー服の妹」が舞台へ。緑に戻す。
そのあとは客入れを手伝いながら曲きっかけでそれを開演時間まで繰り返していた。

【当日/開演】 楽屋から明さん・ジンさん・情次2号さんが出てきて、花道を舞台へ。セッティング中、照明を赤と緑の2色にする。
前奏が始まった。同じコード進行で回してる間に黒子先導で凶子さんが花道を舞台へ。オブジェに囲まれた凶子さんが「♪地獄の子守歌」を歌う。
オブジェ4人とお位牌を持った黒子と犬神サーカス団の4人でにぎやかだ。歌い手から「女詩人」になって犬神家の歴史を読み始めると、黒子が手にお鈴を持って「死にました」と言うたび「チーン!」と鳴らす。その声に合わせて昭和が「姑」のお面つけて登場。オブジェの4人と花道ですれ違う。まるでお葬式にいく道すがら出会った知人のように。
照明は、つけ続けているとリンクしちゃうというのか、「隣の明かりまで一緒についちゃったりする現象」が起きたけど、去年もそうだったので慌てることもなかった。客入れでゆっくり照明を変えていくクロスフェードをする羽目になったおかげで、怪我の功名とでも言うべきか、「なんかあったらじわーっと変えればいいや」という発想で進められた。
去年は夜のシーンでは青い明かりを入れていた。今年の稽古中にふと、この芝居に「青い夜」なんてものはないのではないか?と気付いた。「肉色の月出る晩は・・・」と姑の台詞にある通り、不吉な夜は赤いのだ。ということで基本的に芝居は赤と白で、黒子の台詞や歌だけ他の色を当てていった。
増えたシーンの「先生と裁判官」では情次さんとジンさんが、それぞれひとりでちょっと長めの台詞を語るので、(たぶんライブではあんまりそんなこともないだろうからライブに来てるお客さんもおもしろいかなあと)思い切って紫の斜めからのピンスポで一人ずつ抜いてみた。芝居でスポットをつける場合ならきっと顔に当たるように当てるし、でも楽器持ってるから顔に当たらなくても格好が付く。むしろ翳ってる方が尋問の感じがでて(証言のシーンなので)なかなかよかった。
「♪人肉スープ」は夜明け前の船の上の曲なので前明かりを消して凶子さんが暗い月明かりの中に立っている感じにした。
「♪血みどろ菩薩」は白い線の照明を足していって「がんじがらめのバリケード」という歌詞に合わせた。
「♪花嫁の歌」は月雄が生まれて初めて幸福に触れかける瞬間なので、いろとりどりの世界にしたかった。そのシーンまで芝居中では一回も使っていない紫も青も緑も、全部いっぺんにつけて、舞台上のあちこちにいろんな色の花が咲いているようにした。
でも、月雄が「見るもの全てに色がついている、仏壇は黒、曼珠沙華は赤で、おまえ(シロ)の毛並みはシロだ。色が付いているからには、これは夢ではないのだ、ああ僕は恐ろしい」と言うと、言うごとに色が消えていき、最後の「僕はいっそ隠れてしまいたい。だけど僕が隠れてしまったら、誰かがかくれんぼの鬼になって僕を捜しにきてくれるだろうか?」と言った時にはなっていて月雄とシロの白いスポットだけに絞られていて、その不安のさなかで暗転になる。
花嫁の到着を告げる村の男衆の声が暗闇の中で聞こえる。「月雄ー!出ておいで!素晴らしい花嫁のお着きだよ!・・・」
お祝いを告げるドラの音が鳴り響き、それが一層不安にさせる中、ギターとヴォーカルだけでアコースティックバージョン(?)の「♪地獄の子守唄」が始まり、うっすらと凶子さんの姿が浮かび上がる。
ワンコーラス歌い終えるとドラムとベースが入り、オリジナルヴァージョンへ。間にエピローグが入ってまた地獄の子守唄のサビに入り、エンディング、で暗転。

明かりがついて凶子さんのMCのあと(ギリギリまで照明をして)短歌の掛け合いで舞台へ。テキストがあるので引用します。

『燃ゆる頬、森番、海の休暇』寺山修司初期歌篇によるダイアローグ、相聞形式の試み(構成・佐々木英明)

男 森駈けてきてほてりたるわが頬をうずめんとするに紫陽花くらし
女 とびやすき葡萄の汁で汚すなかれ虐げられし少年の詩を
男 わが通る果樹園の小屋いつも暗く
女 ・・・父と呼びたき番人が棲む

女 「海を知らぬ」
男 「海を知らぬ?」
女 「少女の前に麦藁帽の」
男・女「われは両手を」
女 「ひろげていたり!」
男 「ひろげていたり?」

女 吊されて玉葱芽ぐむ納屋ふかくツルゲーネフをはじめて読みき
男 啄木祭のビラ貼りに来し女子大生の古きベレーに黒髪あまる

女 「そら豆の殻一せいに鳴る夕」
男 「母につながるわれのソネット!」
女 「ソネット?」

男 「胸病みて」
女 「胸病めば」
男 「小鳥のごとき恋を欲る」
女 「わが谷緑深からん」
男 「理科学生と」
女 「スケッチブック」
男 「この頃したし」
女 「閉じて眠れど」

男 「囚われしぼくの雲雀よかつて街に」
女 「空ありし日の羽音きかせよ 一本の樫の木やさしその中に」
男 「血は立ったまま眠れるものを」

男 「チェホフ祭の」
女 「ビラの貼られし林檎の木」
男・女「かすかに揺るる」
男 「汽車過ぐるたび!」
女 「煙草くさき」
男 「国語教師が言うときに」
女 「明日という語は最も」
男 「かなし」
女 「知恵のみが・・」
男 「知恵のみが?」
女 「もたらせる詩を書きためて」
男 「あたたかきかな」
女 「あたたかきかな?」
男 「林檎の空き箱」
女 「ア・キ・バ・コ・・・」
男 「ふるさとの訛りなくせし友といて」
女 「友といて・・友といて・・」
男 「モカ珈琲はかくまで苦し」
女 「莨火を床に踏み消して」
男 「立ちあがる」
男・女「チェホフ祭の若き俳優!」


続いて、凶子さんの導入から明さんとジンさんの詩、昭和さんの「国家論」。
昭和さんからメンバー紹介があって、一番遠くから来てくれたお客さんに全員のサイン入り色紙をプレゼントして、犬神サーカス団ライブへ。新曲「♪蛇神姫」「♪父親憎悪」、それから「♪黒髪」「♪路上」で終わり。

客出しおわって、しばし休憩。慣れないことをしているせいか、変な疲れ方をしていた。外の空気を吸いたくて外でご飯。 6時に小屋に帰る。
6時半客入れ開始。
夜の回はお客さんがたくさんで立ち見も出て、心配した通り花道が通りづらかった。
崩壊のシーンでは、昼できなかった思い通りの照明ができた(それぞれがそれぞれの音楽を奏でるので、スポットを順にあててまわした)。
犬神サーカス団ライブは「♪鬼畜」「♪苦界浄土」「♪白痴」。アンコールを一曲やって終わった。
長い一日だった。




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