犬神サーカス団単独興行(ワンマンライブ)『結束在黒夜』からの手紙/こもだまり


日時 =1999/04/29(祝) PM7:00開始
ライブハウス=三軒茶屋 HEAVEN'S DOOR
出演 犬神サーカス団
    犬神 明(Dr.)
    犬神情次2号(G.)
    犬神ジン(B.)
    犬神凶子(Vo.)
ゲスト 昭和精吾

第一部 「仮面劇・犬神」(作・寺山修司)
第二部 「昭和精吾/アメリカよ」(作・寺山修司)
第三部 「犬神サーカス団/通常ライブ」


犬神サーカス団と昭和の初セッション『結束在黒夜』当日。11時に昭和さんから電話。
「これからバリオに座布団借りに行くんだけど、明(主宰)に確認したらさ、200枚ほしいって言うんだよ。まさかと思ったけど、前売だけで90枚売れてるんだって。俺、これからでるけど、12時にバリオでよろしく!」
今日の本番はスタッフさんなので一応犬神サーカス団の雰囲気に合わせてみようと思いつつ、客層はわからない、ので凶子さんの書いた文章「ロリアバ」(ロリータであばずれ、の意味)を参考に黒いロングスリップドレスに白いくしゅくしゅのブラウスを合わせてブーツを履いて戦闘服とする。道路地図が見つからず、仕方なく池袋までバイクで、そこから山手線に乗って大塚、走って8分、バリオ到着。サエさんにご挨拶して、次はチラシを取りにジァンジァンへ向かう。道がわからなかったけど、実はバリオとうちはすごく近所で、渋谷に向かう道すがら、要町を通った。朝は遠回りしてしまったらしいと知る。「150人は入るっていうんだよな」会場のヘブンズドアには行ったことあるけれど、立ってて100くらいだった気がする、そんな人数、座ったら絶対入りきらない。座布団は正味50人分くらいしかない。でも「あの芝居を立って見せるわけにいかないだろう」と昭和さんはこだわる。「150人も入るんじゃ手は抜けないなと思ってさ、道具みんなもってきちゃった」後部座席を見るとどっさり道具が積んである。ろうそく立て、時計盤、大イス、小イス、などなど。自分のとこの本番さながらの量。「ひとりで積みながらさ、あんまり大変だから、今回はギャラから見たらサービスしすぎだよな、やめよかな、と思ったりしたけど、いや、金じゃない、芸術だ、寺山さんは金じゃなかった、どんな時も手を抜かなかったぞ、芸術のために、なんて反省して全部もってきちゃった」
昭和さんの自宅は14階。一人で積んだとなると何往復しただろう。恐るべきパワー。明治通りから原宿を通る。
「ここは渋谷より若いよね。俺なんか場違いだもんな。でもこないだ千疋屋で食事したよ」
「原宿でですか?」
「NECのフェアに行って、食事券あたったんだよ、だからなんか食ってくべか、って薫と来たんだよ」昭和さんはくじ運が強い。寺山さんの記念館オープン記念かなんかの抽選会でもカメラを当てていた。
「高木(音響さん)まだ家にいるかな、寺山さんの声もってこいって言おう」おもむろに携帯を取り出す。
「違反なんだよね、運転しながら電話するの(笑)」といいながらも電話して
「まちがえた!」とか言いながらまだかける。
「・・・留守電になってる、もうでちゃったかな、じゃあしょうがない・・」
「そうだ、これジァンジァンに渡すんだ」山手教会下の駐車場にゴールド免許保持者だけあって器用に車を入れる。
「ちょっと待ってて」とロックしないで出てゆく、ということは待ってて、ということか? とそのまま待つ。
じき昭和さん戻る。高木さんが電話でつかまって寺山さんの声持ってきてくれることになる。
またドライブ。三軒茶屋に到着。3時オープンなのに2時20分頃ついてしまった。
「ちょっと見てくる」昭和さんはまた私を車に置いて小屋が開いていないか見にゆく。
「まだ開いてなかった。芝居は準備、時間かかるのにな。しかし、はらすいたなあ」という昭和さん。私もとてもおなかがすいていて、かつ劇場に入ったら食べる隙はないたろうと予想して
「何か買ってきましょうか?」
「いや、あとで食べよう」と言い張る。
「今そこでおいしそうなもんじゃの店見つけたから、あとでみんなで食べに来よう」
「でも昭和さん、私照明初めてなんで時間ないと思うんです。なんか買ってきて今食べてもいいですか?」
「いいよ」
「何か飲みますか」
「いらない」
牛丼を買ってコーヒーを買って戻る。昭和さんはアイスコーヒーが好きだ。今一番よく飲むのはジョージアのクリスタルマウンテン(青と水色の缶)。3時、小屋に様子を見に行くと、もう開いていた。高木さんも到着して小屋の人と打ち合わせてる。明さんに「荷物運びたいんで、人手もらえますか?」といい、わらわらと車のある246へ行く。車から卒塔婆とかお面とか椅子を出して運ぶ。昼間に彼らと会うのは初めてで、おひさまのしたに彼らは不似合いな気もしたが、案外さわやかであった。情次さんが今日はとばしている。
「また寝てないんですか?」
「そういうテンションですね。今ハイだから本番頃には疲れてるでしょう」といって台車に膝を抱えて座る。
「似合いますね」
「よく言われるんですよ」よく言われるか?
小屋に荷物を運びきり、私も照明に入る。小屋のケンさんに使い方を訊く。
「このフェーダーが単独で、ここを押すと組み合わせの明かりが出ます」吊りこみがなくてホントによかった。あとはどれとどれがつながってるか確かめてプランに近い明かりのつなぎを練習すればいい。とりあえずお礼をいっていっこいっこつけてみる。センターに当たるのは黄色と、強い地明かり、前面が緑、昭和さんの座るあたりに単独で行くのはオレンジ。あとは何本かのいろいろのサスがくみ合わさってる。ケンさんを呼んで
「これ、ギターとかベースの人に当たるのがないんですけど」
「わざとはずしてあるんですよ、無造作に明かりが落ちる感じになってるんです」ライブってそういうもんなのかなあと思って納得。
舞台セッティングが終わって音出し。
「じゃあ一曲やってみようか」と明さんが言い、関係ない曲をやる。こういうのがライブしてる人のかっこよさだ。とか言ってる暇はなく、練習しつつ、フェーダーに「緑」「姑オレンジ」「赤×3」「ドラム」などと付箋を貼る。
ケンさんが来たので「見本にやってみてくれますか?」となんとなくやってもらう。昨日のビデオによる予習では、それぞれまちまちでどのくらい曲に合わせていいのかがわからないのだ。なんとなくこんなもんかな、とわかったことにして実際やってみる。むっちゃどれがどれだかわからないでやってるからケンさんも不安だろうなあと思いながらおっかなびっくりやる。が、「いいんじゃないですか」と言ってくれた。

きっかけ稽古開始。昭和さんが「もっと暗くして」とか「ばばばーんってできる?」などと注文をつける。音が大きいので「は?」と聞き取れないと耳元で「ばばばーんって!!!」と叫ぶ。(耳元で言うときは叫ばなくても聞こえるのだけれど・・・。鼓膜破れるさ)どうにかこうにかプランをたてた通りにやってみる。台本は書き込みだらけになる。色は赤とか青とか決めてたのと多少違うけど、まあなんとかなる。女詩人は緑、歌は黄色、かっこよさげなとこはバックサス。あとはそれぞれにして、でも歌の内容は覚えたから曲の変わり目とかで変えてみることにする。一応カットチェンジとクロスフェードも練習する。素人にしちゃ(プランは)いい。できるかどうかが問題だ。その右隣で高木さんは、今日は仕事が少ないのでのんびりしてる。「熱くなると隣のつないでない灯体もついてしまう」のは知ってたけど、なにもここで緑と青がつくことないじゃん、真っ赤のシーンにしたいのに・・など、ひー、となりつつきっかけ稽古は終わる。まだ台本に書き込みしてて、ひー、なのに昭和さんがやってきて
「飯、食いに行こう、はらすいた」という。高木さんと八尾がついていくので、私もプランはいさぎよく諦めてついていく。結局もんじゃでなく「コーヒーがおいしそう」な茶店にはいる。みんなでオムレツ。HC2つとIC2つ。
「HP、新聞に記事出てたねえ、ノートPC持ちあるいてる友達が『これ関係あるんですよねえ』って公園でわざわざつないでみせてくれたよ」
「感動した?」
「まあほどほどに」
「せっかくやってくれたんだから・・」などと雑談をして(私の)緊張をほぐしに(自分で)かかる。

ヘブンズドアに戻り、もう一度明かりのチェック。しかし狭いなあ。客入れ開始。せっかく椅子をくれたけど「私立ってないとオペできないのでこれ、いりません」とはけてもらう。音のPAさんと高木さん、私とケンさん、狭いところに4人で立ったり座ったりして待つ。私だけタバコすわないので灰皿をあっちの方に押しやる。お客さんがいっぱいいっぱい来て、もう満員なのにまだ階段にたくさん並んでいる。客入れ時間が押す。初の照明スタッフとして緊張しているのに私に「トイレどこですかあ?」「ドリンクここですかあ?」と質問してくるお客さんが多い。あまりの人の多さに客入れしてる八尾さんもさすがにつらそうで、助けに行く・・・が足の踏み場もないのであまり役にたてない。とにかく無理矢理たくさんつめこんで「始めましょうか」と開演のキューが出たのがなんと、予定時刻の30分後だった。恐るべし。

予定ではまん中の花道をバンドのメンバーや凶子さん、昭和さんが通るために空けておくつもりだったが、そんな余裕は毛頭なくて、まず、明さん・ジンさん・情次2号さんがお客さんをかきわけかきわけ舞台へ向かう。そして最初の「♪地獄の子守歌」のイントロに入る。同じコード進行で回してる6回目かで凶子さんが舞台に着いて歌い始める、となって いるのだけど、凶子さんがいつまで待っても来ない。お客さんが多すぎて進めないのだ。8回、9回と繰りかえして待つ。照明も6回に照準を合わせてもりあげていっちゃたので取り返しが着かず、切り返しの激しいまま待ち続けていると凶子さんがやっとたどり着いた! 歌い始めた時はほっとした。今考えるとこれで案外緊張がほどよいくらいに戻ったのかもしれない。凶子さんが歌い手から「女詩人」になって歴史を読み始めると、その声に合わせて昭和が「姑」のお面つけて登場。手にお鈴持って、「死にました」と言うと「チーン!」と鳴らす。でも同じく人が多くて花道が通れないので、お客さんにどうぞ通してくださいな、という演技をしつつ歩いていく(お客さんは怖がっていたり面白がっていたりした)。
そのあとはプラン書いた台本を見ながらいろいろその場でやってみた。照明は、つけ続けているとリンクしちゃうというのか、「フェーダーでつけてない隣の明かりまでついちゃったりする現象」が起きて、「ここは青いイメージなのになんであそこの赤は光ってるの!」「なんなんだ!」とキチガイになりそうな気分で続ける。ほとんどアドリブ。中には暗転もあるし、懐中電灯のオペもあって(八尾・私・高木)忙しかった。そうこういいつつもいい感じで進んで、「♪人肉スープ」(夜らしい「犬神」に似合った曲)も「♪こんこ曳き歌」(凶子さんの声がきれい)も「♪血みどろ菩薩」(リズムがかっこいい)も、何回も聞いて気に入ってるので楽しくオペする。昭和さんがあまりの暑さに自分の台詞の入りを忘れたり、あまりの暑さに脱水症状を起こしそうになってはけない場面ではけたりしていたが、まあまあいい感じで滞りなく進んで、最後の「♪地獄の子守歌」もう一度の場面に来る。ああもう一安心、と思っているとお客さんが一人倒れて運び出された。手のあいた高木さんが様子を見にいく。私はまだ気が抜けない、あとちょっとだ、と暗転。

「仮面劇・犬神」が終わると突然第二部、昭和さんの「アメリカ」朗読になる。昭和がまた花道を出ていく。今度は通してくれる。いつもどおりのよく知ってる「アメリカ」が終わり、お客さんはよく分からないまま拍手する(状況がつかめないのだ)。昭和が「バンドのメンバーを紹介します」と言い張って、おそらく普段しないであろうメンバー紹介をする。凶子さんが最後に「昭和精吾さん」と言って拍手をもらってくれる。昭和は「ではこのあとは、いつもの犬神コンサートで楽しんでいただきましょう」と去る(コンサート・・・?)。さあ、あとはケンさんがオペしてくれるし、と思って舞台のほうをみると、ケンさんは舞台脇の通路で腕で大きくばってんを出していた。トイレの明かり漏れを直しにいったあと、客席から脱出不可能な状態になってずっとそこにいたのだった。それにも関わらずまんまと犬神通常ライブの第三部は開始したのだった。あとはもう「犬神」より必死だった。とりあえずこうなるとなりふりかまっちゃいられないので、のりのりで全身でリズムを取る。でないと切り替えのきっかけをはずす危険性があるからだ。せっかくの単独興行(ワンマンライブ)でお客さんが超満員なのに照明がはずれてたらかっこわるい。とてもがんばった。舞台に意識を集中した。あとは自分のリズム感を信じるしかない、と覚悟を決める。すると神は私に味方したのか、昨日ビデオで見て聞いた曲が続く! だんだんいい気になって「白痴!」って叫ぶ曲ではストロボさえも使用した(私はかなりイケてると自画自賛だったけど、犬神でストロボは珍しいのだそうで、あとで聞いたらメンバーはびっくりしたそうだ)。

そうやって気持ちよくオペして、第三部が終わり凶子さんの「ありがと」のMCで暗転してじわっとつける。おわったよ・・・みんな楽屋にはけていく、ほっとする。ここで終わると思ったのが間違いだった。最後の試練がやってきた。 ギターの情次2号さんと凶子さんだけが戻ってくる。アンコールである。おもむろに情次さんがギターを用意する。「やばい!」と今日初めて思った。HPで予備知識も入れてたのでこれが噂に聞く「情凶劇場(じょうきょうげきじょう)」なる部門であることは即理解した。理解したけどそのサウンドまでは知らないのだ。ああ、全然知らない曲をやられるんだ、最後の最後でこんなことに・・・と冷や汗が出る。情次2号さんが弾き始める。とりあえずそんなに難しくはなさそう、と思って静かな曲だし切り替えも別にそんなになくていいや、と判断。しかし、ちょっと位したいと思って聞く。どうやら♪時には母のない子のように らしい。隣で高木さんが歌い出す。知ってるだろうからきっかけ貰おうとおもってたのに、もう「これ知らない」とは言い出せないムードで、凶子さんと情次2号さんの呼吸を読みつつ、オペをした。疲れ切った。でも変わったリズムの取り方の、いい曲だった。長い一日だった。後、片づけ。荷物が多いので時間がかかった。

昭和の車にのって昭和宅へ。荷物を家までエレベーターで運び込む。奥さんがパジャマで一階まで降りてきて、
「あら悪いわねえこもださん」
「あなた、若い子にこんな時間まで手伝わせちゃダメじゃない」と言いつつ、はきはき荷物を慣れた手つきで台車に積む。三人で一回であげよう、とちょっとがんばって一回で搬入終了。明日の昭和さんのお弁当であろうタケノコご飯をのお弁当箱をおみやげに貰う(昭和さんは毎日愛妻弁当家なのだと初めて知った)。終電車に間に合って、帰った。


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