『仮面劇・犬神』稽古場からの手紙 /こもだまり


日時=1999/12/10-11(金・土)
会場=渋谷ジァン・ジァン

第一部 「われに五月を/アンコール編」(作・寺山修司)
第二部 「仮面劇・犬神」(作・寺山修司)





10月11日(日)音楽室(世田谷区)
参加者=八尾、イッキ、田中、こもだ、諏訪、野口、かない、犬神サーカス団(犬神明、情次2号、ジン、凶子)、高木(音響)、昭和

初顔合わせ。『1999音楽劇・時代はサーカスの象にのって』に役者として参加した(大阪在住の中西くんを除く)すべてのメンバーが引き続き昭和公演に参加。さらに、一昨年の『仮面劇・犬神』(於・渋谷ジァン・ジァン、以下『犬神1997』)で月雄役だった、かないさんを迎え、フルメンバーとする。

台本を新しく刷り直し、配布。配役を発表し、『犬神1997』のオリヂナルの曲をMDでかけてもらいつつ、音つきで本読み。12月の『仮面劇・犬神』(於・渋谷ジァン・ジァン、以下『仮面劇・犬神1999』)はどういう企画かというと、これまで昭和精吾事務所でやっていたものと、今年4月29日に犬神サーカス団ワンマンライブ『結束在黒夜』で昭和をゲストに迎えてやった『犬神』(於・三軒茶屋ヘブンズドア、以下『犬神0429』)両方のいいところを合わせてやってしまう!と言うのだから大変だ。無理矢理要すれば、犬神サーカス団のロック+寺山さんの世界を純粋に継承してきた昭和精吾の演劇のコラボレーションとでも言おうか? 私はたまたまどっちの『犬神』も参加したので状況はなんとなく把握できるが、今日来ているメンバーの経験度にかなりばらつきがあるため、説明しても共有するのは一苦労。とりあえず『犬神1997』とはだいぶ違う作品になると予想される。

『犬神1995』(於・スタジオ錦糸町)で私が観客として見た、黒子による「文字あそび」と呼ばれるシーンがある。『犬神1997』に出演する際やりたいと志願したが「あれは難しいし、人数が少なくては無理だ」と却下、「犬ボード」と呼ぶシーンを作った。結果的にはその「犬ボード」は昭和さんお気に入りのシーンになったので成功なのだが、今年この作品をやるにあたり再び志願すると『サーカス』で振付した努力が認められたのか、ついに念願叶って黒子7人で挑戦権を得ることができた。帰宅後、以前の構成を確かめる為『犬神1995』ビデオチェック。観客で見た時には「難しそう」と感じたし、昭和さんや高木さんにも難しいと再三忠告されて来たけれど、どうやら難しいというより「時間との戦い」といった模様。昭和さんの語りの間に48文字を並べ終えなければならない。時間にして4分きっかり。稽古あるのみだ。高木さんは「こもだが構成するなら、実際にやるメンバーから抜けて見る側に立って稽古つけた方がいい」と忠告してくれたがどうしても自分も参加したいので、なんとか7人でやる方向で行ってみたい(と言ったら「じゃあしょうがないね」と笑われた)。こういう肉声の台詞のないシーンは(私は踊りと思って構成するが)当然生演奏でOKな筈なので、犬神サーカス団の生演奏で踊ることも楽しみ。
配役は以下の通り。

【犬神家の人々】
昭和精吾=黒子(姑)
八尾建樹=黒子(近所の男・夫)
石原秀文=黒子(裁判官)
イッキ=黒子(先生)
田中芳一=黒子(近所のおかみ)
こもだまり=黒子1、母親
諏訪友紀=黒子2、黒子(取上婆)
野口有紀=黒子3、花嫁
かないまりこ=月雄

【犬神サーカス団】
犬神明(Dr.)=黒子1
犬神情次2号(G.)=黒子2
犬神ジン(B.)=黒子3
犬神凶子(Vo.)=女詩人

ちなみに『犬神0429』では、犬神凶子が女詩人とヴォーカルに加えて月雄も演じた(詳しくは本番のレポートをどうぞ)。





10月18日(日)音楽室(杉並区)
参加者=八尾、石原、イッキ、こもだ、野口、かない、犬神サーカス団(犬神明、情次2号、ジン、凶子)、高木(音響)

生音と肉声でどの程度聞こえるのかを実験するため、音楽室で演奏の犬神サーカス団と稽古。高木さんが「一回全部生演奏って方向でやってみようか」と言い、『犬神0429』をベースにあちこちのシーンの聞こえ方を試していく。『犬神0429』の稽古場に行っていた時も思った事だが音楽をやっている人たちは話が早い。「じゃあコードはこれとこれで回して」とか「こういう感じのメロディ」とか「ディレイをすっごいかけて」とか明さんや高木さんが言うと、すぐにやってのける。高木さんものってきたのかピアノを弾き始めたりしていた。犬神の演奏にピアノも参入か?

「♪地獄の子守唄」から始めて、凶子さんの女詩人へ。ここはマイク同士だし、『犬神0429』通りなので特に問題なし。肉声では基本的に、フルでバンドが入ってるとよく聞こえない。かつ仮面をつけてだととてもじゃないけど聞こえない。全部マイク(仮面の場合は仮面にワイヤレスを仕込む)という可能性も出てくる。黒子の台詞は『犬神0429』では明、情次2号、ジンが担当した。もとは女黒子の台詞だが、彼らの黒子が「暴力性があっていい」と昭和はいたく気にいった為、今回も彼らの黒子を採用。かつ、女黒子の声と動きをかぶせるのが狙いだが、マイクの彼らと肉声でどの程度おもしろくなるか? まだ未知数。今日聞きながらやりながら一つ黒子の動きの構成を思いついたので、今度実験してみよう。

『犬神0429』で歌った曲は5曲。「♪地獄の子守唄」「♪人肉スープ」「♪血みどろ菩薩」「♪コンコ挽き唄」「♪花嫁の唄」。うち「♪コンコ挽き唄」は戯曲に書かれたままの歌詞であることもあって文句なしでイキ。『犬神0429』は犬神サーカス団のライブだったので「犬神サーカス団の世界」であって当然なのだが、『仮面劇・犬神1999』のお客さんは「寺山修司の世界」を見、聞くつもりであろうから、寺山さんの戯曲以外の言語が交ざるとどうなのか?というあたりは未知数。そこは昭和さん次第。犬神サーカス団のメンバーも、思ったより大変なことになりそうだと感じているらしいが、まだまだ稽古をしてみないと分からないのだった。ここから当分はバンドと合わせる稽古ではなく、バンドなしで動きや台詞の稽古をして決めていく予定。次の土曜日は昭和が不在なので、例の「文字あそび」を試してみよう。自分も絶対参加する気でいたシーンだが、先週の高木さんの忠告のおかげで、他の可能性も思いついた。感謝。





11月6日(土)(板橋区)
参加者=昭和、八尾、石原、イッキ、こもだ、諏訪、野口、かない

6時集合。田中くんは今週末まで本番中なので欠席だが、あとの役者全員でとりあえず通し稽古。当然だが、台詞はもうみんなちゃんと入っていた。月蝕歌劇団から見本に拝借した「黒衣」(黒子の衣装)を見たことない人達に見せる。紗布のついた頭巾、手甲(手にはめるもの)、上着(帯付き)とジョッパー(って書いてあったけどパンツのことらしい)、黒足袋でワンセット。2年前(私が初参加した時)は月蝕さんから借りたけれど、今回は借りたこれを見本に作りおろす予定。

ちょっと打ち合わせたあと、
「じゃあ質問がなければ頭からいくよ」これは昭和さんの決り文句だ。いつもこうやって通し稽古が始まる。まず「目玉踊り」から。でもまだ振りをつけてないので保留。ただ、昭和さんからバージョンアップのアイデアが出たので、いい感じになりそうな予感。とりあえず本編の台詞を全部流してみることと、流れを体験することと、(仮面劇なので)お面をつけてしゃべってみることがこの通しの目的。初めてお面でしゃべった諏訪は「お面がずるずるすべって上向きになっちゃうよ!」という。このお面は重たくて、動くとずれやすい。お面を支えようと思ってお面に手をやると、(このお面をつけてると)生の手はすごく目立つので、変に意味を持ってしまうため無造作には触りたくない。しかしお面は確実にずれていくのだ。去年は「近所の女」という役をしたが、それは黒子のシーンの直後で、暗転中に卒塔婆を持ってはけて、お面かぶって下駄履いてキャベツ持って出る。「できるだけ早く」といわれていた為、毎回見きり発車で飛び出していた(今考えればそんなに焦らなくても良かったのに)。そのせいで大抵途中でお面のバランスが悪くなり、変に首がぐんにゃり曲がってる人(お面が斜めってる)になったり、下駄が履けなかったり、お面に半分布がかぶっていた日さえあった(らしい。でも見た人は、そういう演出だと思ったらしい)。とにかくお面は扱いが難しいので、要練習、というより練習あるのみ。

次は一人二役の黒子=八尾の「夫」+「近所の男」の稽古。(恐らく家で練習してきた通りの姿勢=)立った姿勢でやった時は台詞もすらすら出ていて安心したのだが、昭和さんが
「それは仏壇の前で立膝にして、基本姿勢をそれにしてやって。それから声にはっきり差をつけてほしいんだよね。夫は考えてるんだから、そういう時人は、低い声になる気がするんだよ。それをちゃかしてる近所の男は例えば高い声でさ、夫はヘビーにしてみて。」八尾は喉が強い(と昔、声楽の先生に言われた)ので低い声も高い声も結構出る。なのでその点は難なくクリア。近所の男がコミカルになって、すっきりする。と昭和さんが
「あと座ったままでいいんだけど、夫の基本姿勢をそれ(立膝)に決めたら、近所の男の時には手をつけてみるとかね、そうやって色つけてみて」と言い、さらにやってみる。八尾、近所の男の台詞になって手の振りをつけたら勢いで立ちあがってしまう。「あ」とすぐ気づいて座り直して続ける。そんなこんなでだんだん夫と近所の男の声が逆転したりしてパニックを起こしていった。昭和さんも笑い、
「まあ練習ですね」と言う。

女黒子三人のシーンは犬神サーカス団との輪唱ではなく、重ねてしゃべっていいとのことなのでそれで動きをつけてしまうことにする。その方がたぶん、すんなり行くだろうと私も思う。黒子の台詞をまわしてみると昭和さんが
「そこ、学校の先生、でしょ?」と言うが、犬神サーカス団バージョンでは「小学校の教師」になっているのだ。
「寺山さんに謝っておく」と昭和さんはいい、そのバージョンで押し通すことになる。とりあえず一昨年の黒子の仕事や裏の仕事は全部台本に書いてあるので、これはするのか?しないのか?と確認をとりつつ進める。ほぼ全体の役割と仕事配分がわかる。田中くんが復帰したら全部配分してすっきりするだろう。

急遽、昭和さんが明日の稽古には来られないことになり、明日は自主稽古となる。





11月7日(日)(杉並区)
参加者=八尾、石原、イッキ、こもだ、諏訪、野口、かない

1時半からストレッチ、アーサナをして稽古へ。今のところ黒子も歌うことになっている「花嫁の唄」の歌詞を聞き取るため『犬神0429』テープを聴き、とりあえずメロディを覚えて歌う。

長すぎた夜が終わりを告げる
森中の樹木が目を覚ます
しぶきをあげて水がほとばしり
あたたかい朝が訪れる
日の光やさしく扉をたたき
目もくらむ青空がおまえに呼びかける
・・・(ここききとれず)
17の幸福に怯える花嫁よ


「文字あそび」の動きをつけようと思ったが、動きを説明していると八尾が
「こもだがこのシーンで何をしたいのかわからん、段取りじゃなくて何をしたいのかや」といい、ヒデさんが
「ここは次が十年経ってるシーンだから、ここでその時間の経過を出せたらいいですね」と言う。
「振付としてやってくれればそれに必死でついてくだけやで」というので、保留にする。焦っても仕方ないと思った。今日は急に自主稽古になったので振付は間に合わなかったのだが、せっかく集まってるので何かしなきゃと思ってしまうのはよくないことらしい。それだと、私も不安だけどやる方も不安になるようなので、次回まで時間をもらうことにする。今回は舞台がフラットでないこと、暗転中の動きであること、道具を使うことなど、ダンスでやったことない条件が多く、不安要素がいっぱいで、かつ、暗転中に道具を使う場合、自分の体ではなく道具を見せるというのはもっと想像がつかないので難しい。大道芸の人がマスクを使ってブラックライトで踊りをしてるのを見た。あれは「犬踊り」に通じるなあ、と思っておもしろかったのを覚えている。あそこにヒントがあるのかもしれないけど、単純にその言語を私が知らないので、私にはないので考えられない? 見たこともきいたこともないことは出来ない。でも、あれは見たのだからその分は知ってるはず。というより、諏訪はその時体験したのだから、参考に聞いてみよう。

考えられる所から始めようということで、『犬神0429』の黒子の台詞をテープで聞く(野口と諏訪は本番を見ていないのだ)。今回の稽古に入ってからわかったが、曲がないと振付は考えられないらしい。黒子のシーンで、台詞に(それも自分でしゃべるのではない台詞に)動きをつける、というのは案外頭が回らない。でも三人で話ししているうちになんとなく振付の思考と繋がってきて、次回までに黒子の3「聞いたか?」の振付をしてくる約束をして終わる。

後、田中くんの出ている芝居を大塚まで見に行き、終演後田中くんに会う。
「大変だよ」
「田中くん、踊りソロあるから」
「キャベツがね・・」とやいやい言い、田中くんは
「そんな、みんなで畳みかけるように(いわなくても)!」と言う。彼も火曜日から稽古復帰。





11月9日(火)(世田谷区)
参加者=八尾、イッキ、田中、こもだ、諏訪、野口

私が遅れたのでストレッチは各自したというのでフロアから。久しぶりにこのメンバーでフロア。今回は直接的にモダンをするわけではないが、動きの基礎としておさえておきたいのでフロアはすることにしている。特に、足腰が大事なので、プリエなどする。ブレスコントロールからエアー(発声)。

稽古場が9時までなので、5分だけ休憩入れて後半へ。
「今日は黒子の「聞いたか?」をつけて、できたら文字あそびまで行きたいですね」と予告して早速女黒子三人集合。まず、ホワイトボードに配置を書いて、台詞を出しながら一通り振りをつける。野口さん、風邪をひいている様子だが、風邪薬の飲み過ぎでハイなのか、なんだかいつも以上の集中力を発揮して、さくさく覚える。対して今日の諏訪ちゃんは疲れ気味なのか「全然覚えられないー!」と叫ぶほどに覚えられないらしい。『犬神0429』のテープをかけながら何度か通してみるが、諏訪ちゃんがどうしても「しかも月夜に」の部分ができない。笑ってしまうくらいにできないので笑う。そうこうしているうちに稽古時間が終わる。

時間が早いので、近所のロイヤルホストで食事しながら諏訪は振付を書き写す。イッキが
「あの文字あそびのシーンなんだけど・・」とヒントをくれる。野口さんも
「不思議の国のアリスのトランプみたいに・・・・」とヒントをくれる。帰りの京王線のホームで電車待ちしている間も黒子の復習する諏訪。他の二つのシーンの振付についても話して、
「ポージングとか入れてみる?」などどなんだか変に盛り上がる。振りをつけた相手が盛り上がっているので安心した。

本番の曲の入ったMDを八尾が高木さんから預かって来てくれたので、「目玉踊り」の曲も手に入って、振付が進むだろう。





11月10日(水)豊島区(こもだ振付日記)
参加者=こもだ

昨日もらったMDを聞く。「目玉踊り」は一昨年はドイさんに動きをつけてもらった。その時は昭和さんと舞台をやるのが初めてで、何もかもさっぱりわからなかった。何から何までほとんど言われた通りに動き、自分たちでしたのは「犬踊り」くらいだった。そのせいか昭和さんは「犬踊りが一番お気に入りのシーンだ」と言ってくれていた。今年は「犬踊り」が「文字あそび」にグレードアップする予定なのだが。

目玉踊りの曲は、犬神サーカス団が舞台にあがる前なので生演奏ではなく、従来の曲である。カウントをとりづらい曲なので一昨年は勝手に8カウントで数えていたが、いつも曲とずれていって気持ちわるーい感触でやっていた。今日聞いてみたら5カウントの曲だった。それさえわかれば(なんで一昨年気付かなかったんだろう)スッキリ。ただ、最初の部分は「ビャー・・」とか「コポコポコポ・・・」とか「シャー・・・・」とか「ヒュワヒュワ・・・」という音ばかりで、カウントはとれないので10カウントで振り付ける。全員でたくらいでドラム(というより太鼓?)が少し入ってきて、と思ったらいきなりキーボードの5カウント(3・2)の激しいリズムになる。よーく聞いたらギターの音も入っていた。そこからは単純に繰り返しで5×5×5、そのあと展開して2・3の5カウントになって、延々同じ音が繰り返されている。ラストを思いついたので、明日続きを考えよう。





11月14日(日)板橋区
参加者=八尾、石原、イッキ、田中、こもだ、野口、かない、昭和

「文字遊び」を一昨年のバージョンでおさらい。昭和さんに指示してもらいとりあえず理解した。最低でも1分くらいかかる。これをもとに構成してバージョンアップする予定。曲は生で行く可能性あり。使用曲の入ったMDが手に入ったので稽古がしやすくなった。ひととおり通し稽古。




11月16日(火)杉並区(自主稽古)
参加者=八尾、石原、イッキ、田中、こもだ、諏訪、野口、かない

目玉踊り振付終了。冒頭はカウントできない曲なので、きっかけの音と自分の中でのカウントを信じて踊ってもらうが、難行。衣装の都合で音が聞こえにくくきっかけが取りづらいらしい。でもなんとか動きを把握するところまでは行った。 私は今日は入らないでこっち(客席側)から見ていたが、メリハリがつけばおもしろそうだ。あとは舞台の形や仕掛けで、どう見えるかだけ早めに実験したいところ。




11月20日(土)板橋区
参加者=八尾、イッキ、田中、こもだ、諏訪、野口、かない、昭和

稽古場がフローリングの広い部屋なので気分がいい。明日は犬神サーカス団と合同稽古なので時間を盗んで少女(と書いてある)黒子3人の動きをつけてしまうのが今日の目標。昭和さんから「渋滞で遅れる」と連絡があったので、早速「変な子」部分を諏訪ちゃん・野口さんに伝授。
昭和さんが来て通し稽古のあと、細かく返して稽古する。諏訪ちゃんは老け役なので「声をもっとしわがれさせて」「手が若いなあ」「上半身動かすな!」などの指示をうけつつ稽古が進む。この仮面劇は、仮面同士が向き合ってしゃべるとお客さんに顔が見えないのでつまらない。むしろ、正面を切ったままでお面をどう見せるかに主眼をおかないといけない。お面そのものに慣れて、どうしたらどう見えるのか研究することが必要。諏訪ちゃんの稽古を見ているうちになんとなく、こうやると面白いんだな、というような事が見えてくる。
「あの声だれだ?って言われるくらいババァの声出してね」と昭和さんは言っていた(ちなみに昭和さんの姑は年々ババァ度合いが増している。初めて「犬神」を見たときは途中まで昭和さんがババァとは気付かなかったくらいちょっと聞きには違う声なのだ)。

道具を一通りだしていると見覚えのない布がある。昭和さんが
「こもだ、この布なんだかわかるか?」
「さあ?一昨年は使ってないですね、私の知らない公演ですか?」
「いやあ、実は俺も見覚えないんだよ(笑)」
「うちのじゃないんじゃないの?」
「どこのもってきちゃったのかなあ、犬神サーカス団のか?」と皆で話していたら急に昭和さんが
「あ、これ、ねんねんころりのとこで使おう!」と思いつく。偶然まぎれてた布でまたひとつ新しい演出ができた。

続けて台本に書かれていたりいなかったりする黒子のお仕事をさらう。昭和さん曰く
「俺の暗転は本当の闇だからね。あなたたちの為にすこーしだけは目印させてあげるけど、天井桟敷はみんな真っ暗闇のなか平気で動いてたよ」
この演目は道具が多く、暗転も多く、一昨年も暗転板付き(暗転中に舞台にでてスタンバイすること)の人とはける人でよく衝突事故が起きていた。今度の舞台はでこぼこあり、さらに今回はバンドもいるので、ぶつかりどころはたくさん あるので要練習。

せっかく広い稽古場なので目玉踊りと文字遊びの実験をしようとして、仕掛けの位置をあれこれしていたら仕掛けがはずれて落ちて割れてしまう。破片が飛び散り、裸足で稽古してる組は動けなくなる。「足袋も危ないでしょう」とヒデさんがいうので、黒子なのにみんなで靴を履いて稽古(変だった)。音響の高木さんが来て、構成の話を昭和さんとしつつ、明日のバンドとの合同稽古に備える。隙を見て廊下で少女黒子の「風呂場に忘れた」部分の伝授。なぜかすんなり。
これで「変な子」「風呂場に忘れた」「聞いたか?」の少女黒子みっつの大枠はできた。あとはバンドの音(台詞の間にちょっとした演奏がある)とのからみ次第なのでやってみてからにする。
少女黒子3人チームはそのあとごはんを食べながら動きと仕事の復習をした。




11月21日(日)江東区
参加者=八尾、イッキ、田中、こもだ、諏訪、野口、かない、犬神サーカス団(犬神明、情次2号、ジン、凶子)、高木(音響)、昭和

チラシをジァンジァンに受取りに行き、そのまま稽古場へ。2時開始、冒頭から流れを追う。ちなみに犬神サーカス団は演奏があるので、誰よりも早く登場する。ちゃんと彼らの登場シーンも作られた。そこからいきなり「♪地獄の子守唄」~生演奏のまま女詩人の語り、という『犬神0429』流れを汲む構成から始まる。
以下、ここは生、ここは音響、ここは音響が先に入ってそこにかぶっていく、など細かく構成していく。昭和さんのする「台詞の合間をぬってドーン!とやって」とか「さっきの不気味な音、あれちょうだい」「ドラムがフェードアウトしていって・・・」や高木さんのする「ここからギターのアルペジオ入って、ベースはずっとフリーでなんか弾いてて」なんていう要望を黙々と、着々とかなえていった犬神チームだった。今日は後半の途中までしか行かなかったけれど、どうやら最初の予想通り「♪人肉スープ」「♪コンコ挽き唄」「♪地獄の子守唄」「♪花嫁の唄」はイキのようだ。次のバンドとの合わせは26日(金)。その前に23日名古屋、24日心斎橋で遠征ライブだそうだ。




11月23日(祝)江東区
参加者=八尾、石原、イッキ、田中、こもだ、諏訪、野口、かない、昭和

私が遅刻している間にワンシーンできていた。月雄役のかないさんはこの2年に何があったのか一昨年の時と全然違ってきている。格段にいい。このまま行けば今までの昭和チームの今年の『犬神』が一番の出来になるはずだ。

稽古後、諏訪ちゃん・野口さんと足袋を買いに行く。探しているのはウラも黒の黒足袋。錦糸町駅近辺にはなかったので、一昨年私が購入した新宿伊勢丹の呉服売場へ直行する。大荷物(道具は各自管理なのでお面やラジカセを持っている)は呉服売場に不似合いだ。「ウラが黒の黒足袋ありますか?」と言うと「これしかないです」と見せてくれたの は別珍の足袋。きれいなお姉さんの店員さんがやさしく試着用の足袋を持ってきてくれて、二人は無事購入。私が一昨年買ったのは別珍ではなくすべすべしたやつ(その時はそれしかなかった)だったので私もおそろいで買おうかと思ったらサイズがなかったので、私だけ別珍じゃないので出ることになった。舞台では顔は見えないけど足袋で識別してもらえるかもしれない。諏訪ちゃんはいたくその足袋が気に入って、家でも愛用しているそうだ。




11月24日(水)豊島区(こもだ振付日誌)
参加者=こもだ

渋谷ジァン・ジァンでアキコ・カンダ・ダンス・カンパニーの「バルバラを踊る」を見てやる気をだし、帰宅してバンドからもらったテープをMDに落として、繰り返し聞きながら鏡の前で振り付ける。ずっと保留にしていた台詞の間の演奏部分(バンドのメモには「Aキメ」「Bキメ」と書いてある)を決める。何度も何度も聞いているうちに、これだ!と思いついては鏡の前でやってみて直す。「黒子だからこれはしちゃ変だろう」なんてどこか無意識にセーブしてた所があったらしいが、もとより「仮面劇・犬神」+ロックなのだし!と強い気持ちになり、やってしまう。あとは明日稽古場でやってみてだ。




11月25日(木)杉並区(自主稽古)
参加者=八尾、イッキ、田中、こもだ、諏訪

稽古場でイッキさんから「目玉・・・一回やりたくない?」とリクエストがあったので、暗転つきで何度か稽古する。カウントのないところがやはり不安らしい。顔の向きもダンスなので視覚不良でまわりに合わせて、なんてことができない。不安なままやるとかえって危ないのでとりあえず自分のカウントを信じて思い切って踊って欲しい。
野口さんがNGなので諏訪ちゃんにだけ伝授し、稽古。まず、「文字遊び」のオプション部分の振り伝授。諏訪ちゃんも最初は不安げだったが、ガラスに映して稽古し始めたらすぐ理解して「たのしーい!!」と言った。「あたしここのピヨッって出るとこ好き」などと感想をいいつつさくさく覚えていった。
男黒子チームが「縄の稽古させてんか?」というので稽古。舞台の形を生かして、ちょっと変型。びしっと決まれば前よりずっとかっこいい。
続けて諏訪ちゃんと「変な子」「風呂場に忘れた」。説明すると「うわー、黒子なのに××ってるよ」と笑う。後半の曲部分は「1,2,3,4」とカウントで動く。諏訪ちゃんは「うわー×××だー、こんな黒子みたことないよ!」と喜んでくれた。お客さんには別に変なことしてるようには見えない(ちゃんとやってるように見えるはずだ)けどやってる本人は別の意味で楽しんでいる。これもバンドとのコラボレーションになったおかげで出来たこと。偉大なる他者に感謝。 そして一緒に稽古してくれて喜んでくれた諏訪ちゃんにももちろん感謝。明日バンドと一緒にやってみる。




11月26日(金)江東区
参加者=イッキ、田中、こもだ、諏訪、野口、かない、犬神サーカス団(犬神明、情次2号、ジン、凶子)、昭和

犬神サーカス団と稽古。
「6時にきっちり集合って昭和さん言ってたよ」という諏訪ちゃん情報で、仕事を早退して稽古場に向かう。10分前、亀戸駅到着。ギリギリか少し遅れてしまいそうなので諏訪ちゃんに電話すると
「私と田中くんしかいないよ。昭和さんもいないんだよ」と言う。とりあえずこれから向かいます、と言う。まさにバスに乗りこもうという時イッキさんから
「これからどうしても中目黒回らなきゃ行けなくなったんで、昭和さんには言ったけどかなり遅れちゃうと思う。ごめん、よろしくですー」と電話。バスに乗って座った直後犬神情次2号さんから電話
「早く稽古場に着いてしまったけど誰かいますか?」
「スワちゃんと田中くんが2階にいるとおもいます」と伝える。なんだか丸八通りが渋滞していてちっとも動かない。なんだかんだ結局6時半に到着するとかないさん石原さんも来ていた。昭和さんがまだ来ていないので変だなあと思っていると7時ちょっと前に到着。どうやら「6時にきっちり集合」というのは「7時」の言い間違えだったらしい・・・。「構成を決める」と聞いていたのでてっきり音響の高木さんが来ると思っていたら来ていなくて、電話してみると
「今日は行かない予定だよ。日曜日もバンド来るでしょう?」とのこと。そんなんで大丈夫か?

バンドがセッティングしてる間に黒子を野口さんと諏訪ちゃんで確認。後ろでかないさんが笑ってみている。
「こんなに××ったらバレるかなあ?」
「さあ?」
「ここは壁に耳寄せて聞いてるの」「これはこっそり臭いをかいでるの」などと振りの説明をしつつ覚えてもらう。バンドから中西くん(今年夏の「サーカス」出演者)のおみやげをもらう。中西くんは心斎橋の犬神ライブに来て「公演見に行きますから皆さんによろしく!」と言っていたそうだ。昭和さんがなんと
「今日稽古なの忘れてビール飲んじゃったんだよね!」とゴキゲン発言。「おわびにみんなに飲み物買ってきたから」とお茶を振る舞われる。6時に集合した諏訪ちゃん、田中くんはびっくり。「まさかイッキさんの遅刻報告電話で気付いたのでは・・?」とこっそり話す。
セッティングが終わって稽古。バンドでやった『犬神0429』はいろいろカットして歌を入れていたのでバンドメンバーは全体の流れを知らない。最初から順に復習することにする。まず、こないだの稽古で決めたところまで確認しつつ復習。こないだの稽古では音響だけで行く予定だった赤子誕生の所を昭和さんに「ここはライブ(0429)ではギターから演奏に入って女詩人につないだんですけど、どうですか?」と聞く。ここは八尾さんが「あそこはホントに絶妙や!」と何度も言うほど気に入っている箇所。確かにライブでやったときかっこよかったので提案してみたら「どんなの?」と言われ、犬神さんからも「あそこは一応やれるように準備はしてある」と事前に聞いていたのでやってみせて(きかせて)もらって、採用になる。テープから引き継いでギターに入り、しばらく演奏して女詩人、となる。それからバンドのからみを追って、音響の上から生音をかぶせたり、効果音的なものを入れてもらったりして進む。なんだかおもしろい。バンドのオリジナル曲の入れ場所も含めて全部のシーンのつなぎが暫定的に決まる。今日は稽古の音をMDに落とした。明日からは全部音源ありで稽古できる。すばらしい。

稽古後、情次2号さんのワゴン車(ツアー車に使ってるだけあってゆったり)に便乗して駅まで、のつもりが池袋方面に向かうというので皆でそのまま池袋駅まで乗せてってもらう。仮面とか小道具とかで大荷物なのでとても助かる。犬神サーカス団はツアー直後の為まだツアー気分で車内は変なテンションで騒いだ。役者も稽古後なのでちょっとハイになっていて車内は大騒ぎだった。10時半ごろ家に到着。MDのチェック。バンドと音響のつなぎなど確認しつつ、一応表にする。




11月27日(土)豊島区
参加者=八尾、イッキ、田中、こもだ、諏訪、野口、かない、昭和

昨日録音したMDを使ってほぼ本番通りの曲で稽古。例の少女黒子は昭和さんから
「すばらしい踊りなんだけど・・・ちょっと×××っぽすぎるかなあ。まあ任せるけど(笑)。でも手の動きはおもしろい。やっぱり不気味な感じを出したいんだよね」「なんだか派手すぎない?」
とのコメントがあり、求められていることがなんとなくわかったので作り替える予定。諏訪ちゃんと「やっぱり×××だってバレたね?」「バレるでしょ、そりゃあ」と話す。「文字遊び」の仕掛け実験。なかなかよさそう。動きもこっちは昭和さんにも好評だった。また明日もバンドと合同稽古なので、通しでやってみて様子を見よう。ホームページでの予約が着々と入っている。取り付けたカウンターもそろそろ4000になるので「こもだ、まだ先だろうけど4000越えたらなんかしような」と昭和さんが言った。



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