修司の扉
寺山さんとの思い出 その21


1969年12月22日初日の舞台にむかって、我々は2階のスタッフル−ムで衣装あわせをしていた。
突然、怒号とガラスの割れるような激しい衝撃音が聞こえたきた。「なんだ?あれは」唐十郎氏率いる「状況劇場」の天井桟敷への殴りこみであった。世に言う「アングラ劇団員の乱闘事件」である。
1969年12月13日の当時の「朝日新聞」夕刊によれば通行人の通報で警官15人がパトカ−5台で駆けつけ乱闘が約20分間続いたと記されているが、そんなに長くはなかった。我々が一階に降りたときは状況劇場の圧勝ですでに終わっていた。寺山さんや唐氏ら9人がその場で現行犯逮捕。

天井桟敷がオ−プンした際、唐氏からパチンコ店頭に飾られていた中古の花輪が届けられたという。後、唐氏が劇団近くの神社でテントを張った時、その花輪のお返しにと葬儀用の花輪を贈ったのが原因とされているようだが自分は両方の花輪を見ていないのでこの話が本当か嘘かも知らない。
後日、寺山さんは「唐のところの役者はいいよな、うちは誰も俺を助けにきてくれなかったよ」とぼやいたそうだが、電光石火の如くの奇襲攻撃に我々が降りて行った時にはすでに一件落着していただけの事である。
初日が何日間か延びたが客席に唐氏の姿を見たとき変な安堵感を感じたのをおぼえている。暮れに長男42歳で他界。葬式へも行けず「死に目に会えず」を体験し墓参りは札幌公演が終わった年が明けた1月であった。1969年、妙な年の瀬だった。

 

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