『1999音楽劇・時代はサーカスの象にのって』
1999/07/23(fri)-25(sun) 渋谷ジァン・ジァン
舞台
【 作 】寺山修司
【構成・演出・出演】昭和精吾
【照 明】ジァン・ジァン
【音楽・音響】高木尋士
【振 付】こもだまり
【出 演】八尾建樹・石原秀文・イッキ・田中芳一・中西隆雄
こもだまり・諏訪友紀・野口有紀
犬神サーカス団=犬神明・犬神情次2号・犬神ジン・犬神凶子
【ゲスト】萩原朔美
【演 奏】監獄隊=三木健(Vo.) 山本和人(Gu.) 野村典史(Ba.) 大堀秀二(Dr.)




0「客入れ」

こもだまり Tシャツにジーンズ姿の出演者が舞台上で開演の準備をしている。 (先ほどまで起きていたであろう「開場前の時間」を過ごす俳優たち) 体を動かす者、小道具の準備をするもの、振付の確認をするもの、など。 スタッフもマイクチェックや照明の位置を動かしたりしている。 開演時間が近くなると、役者の一人が昭和さんを呼びに行く。気合い入れである。 確認事項が終わって出演者全員で円陣を組む。 昭和の気合い一発「いくぞおー!」に「おお!」と応え、おのおの楽屋へ向かう。 「野口、ここ掃除しといて」と昭和がいいのこし、野口が掃除機をかけ始める。 (そろそろ開場である、という雰囲気のまま・・・)急に暗転。

「星条旗よ永遠なれ」のなか明かりがつくと、巨大な星条旗をかかげている役者達がいる。 ゆっくりとうやうやしく舞台に星条旗を下ろす。

ニクソンの演説の声と銃声の中、一人のベトナム兵がガムを噛みながら敵に向かって銃を構えている。 舞台奥には「ベトナムの少女」(泣いている女の子の写真)。




1「ビバ・アメリカ!」

一転して70年代アメリカの陽気な曲「ビバ・アメリカ!」が流れると明るい照明がつき、 舞台上で6人の男女が踊り出す(こもだ・諏訪・八尾・イッキ・野口・田中)。 他の出演者も曲にのってだんだんリング下に集まってくる。 6人がリング下へ一斉に飛び降りる。
と・・




日本人 2「リンガフォンレコードで英語を勉強しよう」

【日本人】田中芳一
【アメリカンフットボールの選手】八尾建樹


日本人、すっくと立ち上がり君が代を歌いながら、ラジカセを持って舞台にあがる。 おもむろに英語の教科書を取り出してラジカセに英語を録音し、 鈴がフォンレコードを真似するようにして英語の勉強を始める。 「レッツ スピーク イングリッシュ。グッモーニン。・・・・」 それをリング下から見つめているアメリカンフットボールの選手。 「アイアム アン アメリカン」と聞いて思わす話かける。
「いつから?」
「3日前からだ」
日本人はアメリカへ行きたいといいはり、アメフトの選手は女性的に男性的にあの手この手で彼をひきとめようとするが 日本人は聞き入れない。頭に来たアメフト選手はマイクを握り、英語をしゃべりだし、生演奏になだれ込み、リング下の全員も呼応して、歌になる。
リングサイド

♪「コカコーラを飲もうよ」

コカコーラを飲もうよ
コカコーラを飲もうよ
CIA アイラブユー  PTA IBM
FBI SOS ティーフォーツー PPM
DDT アイアイサー NHK アイニージュー
英語はたくさん知っている
毎日ニュースが教えてくれる
FBI アイラブユー CIA SOS USA!







3「アメリカよ」

【詩を読む男】昭和精吾

昭和精吾
昭和精吾によるレパートリーの一つ、寺山修司の詩「アメリカよ」の朗読。





4「ファックアーユー、ときには歌の文句になるよ」

【少女】諏訪友紀
【爪を切る看護婦】野口有紀
【風邪ひきの学生運動家】イッキ
【眠い中国女】こもだまり
【ラジオを聞く西部劇の男】田中芳一



とある公園のベンチにそれぞれ黙って座っている四人。そこに「くまのプーさん」の絵本を読もうとやってくる少女。椅子を置くとき「がたん!」と音をたててしまうと、4人が一斉に「しー!」と言う。 静かに読書をしようと心に決めた少女を、爪を切る音、あくび、くしゃみ、笑い声などの雑音が邪魔をする。 頭にきた少女は本を閉じ、ラジオのイヤホンを引き抜く、と、西部劇の音楽がラジオから流れ、その曲にのって 少女が指揮をする。様々な音を少女の指示するままに出す4人。地下鉄の音、犬の声、などなど・・・。
バンドも参加して寺山の詩で「恋の片道切符」を、5人も歌いながらダンス。



♪「恋の片道切符」

汽車はゆく 汽車はゆく 心臓の荒野を抜けて ああ
ああ 轟音轟かし 
目を覚ませ アメリカよ 誰でもが音楽だ うう
ああ 雑音万歳 ああ
今すぐに欲しいのさ 歴史では遅すぎる 
ああ 叫べよ吠えろよ うう・・・






5「スーパーマンの詩」

【鉄工所のプレス工】八尾建樹




「誰が僕を思いだしてくれるだろう」のリフレインで始まり「僕の名前は」で終わる寺山修司の詩を98年に引き続き八尾が2度目の挑戦。




6「おれたちは戦争へ行きたいんだ」

悪ガキ3人
【「暴力教室」の半ズボン】諏訪友紀
【「暴力教室」のシラクモ】石原秀文
【「暴力教室」のソバカス】イッキ
【「暴力教室」の白エリ】野口有紀
【女教師】こもだまり



中学校の教室の休み時間。白エリは優等生の女の子風に予習をしているが、 悪ガキ3人は「プレイボーイ」を見て騒いでいる。 半ズボンあまりの騒がしさにたまりかねて白エリ、「宿題やったかい?」 と声をかけるが、ますます増長してタバコまで吸いだす3人。

と、いつの間に授業時間になっていたのか教室のドアが開き、 マリリンモンロー風のすけすけの衣装を着た金髪の英語教師がモンローウォークで入ってくる。 悪ガキと言っても中学生なので、一応教科書を出して話を聞き始める。

「今日は安全保障条約からでしたね」と授業を始めるが、 「先生イカしてますね、そのドレス!」「俺達は戦争へ行きたいんだ!」と教室は大騒ぎ。 半ズボンが先生に英語でプロポーズすると言いだし「I WANT YOU!」と言ったのをキッカケに 生演奏「WANT YOU!」へ。先生は机の上にのり、生徒達とツイスト風のダンスを踊る。 ここからリング下の役者達もダンスに飛び入り。



♪「WANT YOU!」

WANT YOU!WANT YOU!
あなたが欲しい 僕らは若い WANT YOU!WANT YOU!
セックスしたい 戦争したい WANT YOU!WANT YOU!
WANT YOU!WANT YOU! WANT YOU!WANT YOU!




ついに皆戦場へ! ストロボの中銃を持って大暴れ。


♪「ぶちこわせ!」

ぶちこわせ! うちまくれ! のりこえろ!
ダダダダ ダダダダ ダダダダ ダダダダ
親父のやった戦争をせがれの俺にもさせてくれ
ダダダダ ダダダダ ダダダダ ダダダダ
戦争だ! 犯罪だ! 暴力だ! 強姦だ!!・・・・





みんな打ちまくって倒れこむ。




danceスモークの中静かなバラードの3曲目、モダンのコントラクションを使ったダンス。
女教師がひとり立ち、鎮魂するように踊りかける。

♪「おいらが戦争へ行くとき・・」

おいらが戦争へ行くとき みんなはさっぱりするだろう
邪魔な息子の墓場では 誰も歌わないだろう
おいらが戦争へ行くとき それでも海は青いだろう
ひなげしなんか もう誰も 摘まなくなるだろう・・・






単調な軍隊の行進曲のような曲で銃を構えて赤い照明の中ひたすら行進を続ける人々。
傷ついて足をひきづりながら、敵を警戒して後ろを振り向きながら、疲れ果てて下を向きながら・・・

♪「戦争へ行きたい」

戦争へ行きたい 戦争へ行きたい 戦争へ行きたい 戦争へ行きたい
ワン チュー スリー フォー ワン チュー スリー フォー
ワン チュー スリー フォー ワン チュー スリー フォー
戦争へ行きたい


最後は銃声が鳴り、全員倒れる。






7「とびたい人には、とび方教えます」

【少女】野口有紀


初演時から使われているJ.A.シーザーのテーマ曲が小さく流れ、全員が倒れている教室でひとり目を覚ます白エリ。
やがてゆっくりと起きあがり、「とびたい人にはとびかた教えます」と語り始めると、倒れていた皆もその声に呼びさまされたようにゆっくりと目をさまし立ち上がり、手を翼のように広げる。
手を真横に広げて、全員で「遙かな遙かな遙かな青空目指して、思想への離陸」、「いち、にの、さん!」





8「一番遠いところはどこ?」

【歌】犬神凶子
【ギター】犬神情次2号


♪「一番遠いところはどこ?」(歌詩=寺山修司)

一番遠いところはどこ
線路に向かってきいてみる
さみしくなるときいてみる
一番遠いところはどこ
誰もしらない 地の果ての
戦いなんかない国へ

一番遠いところはどこ
十円玉しかないけれど
行ってみたいな その国へ

一番遠いところはどこ
誰にも邪魔をされないで
二人きりで暮らしたい
一番遠いところはどこ
流れる雲を見ていると
なぜか涙があふれ出る





9「ああ、悲しき西部劇は腰抜けの父との決闘」


犬神サーカス団 【もとドラマーの父親 ビル】犬神明
【息子 大学キッド】犬神ジン
【母親 ジェーン】犬神凶子 
【楽士】犬神情次2号
【弁士】石原秀文


親父 ロックバンド「犬神サーカス団」による生演奏音楽劇。この年の4月に寺山作品「犬神」をライブで上演した際、昭和がゲスト出演したのが縁での役者としての出演となる。

暗転の中、トランペット(生演奏)で「シェーン」のテーマ曲「遙かなる呼び声」が吹かれる。曲にのって明かりがつくと弁士と楽士がおり、舞台中央では父親が一升瓶を呑みながら新聞を読んでいる。そこに二丁拳銃を持って息子のキッドが帰ってきて決闘を申し込み・・・。
弁士 食事のシーンでは、もとドラマーという設定なのでスティックを箸代わりに使ってかっこんでいたら、だんだんリズムを刻み初めてついつい昔取った杵柄で客席までいってあちこち所狭しと叩きまくり、お客さんの肩まで叩いて拍手喝采された父親役の犬神明。
いよいよ決闘、というときに「お待ち!早まったことをするんじゃないよ、キッド!」 と泣きながらもんぺ姿で飛び出しキッドにすがりつき「かあさんのうた」を熱唱した母親役の犬神凶子。
芝居の進行に合わせて本職のギターだけでなく隠されたトランペットの腕まで披露した楽士役の犬神情次2号。
わざわざこの役の為にヒゲを伸ばし、銃の指回しを稽古し、毎日ウケを取るためにネタを変えて勝負したキッド役の犬神ジン。
そんな4人で繰り広げられたキッドと親父との決闘劇は、台詞とバックで入るギターとが、バンドならではのコンビネーションを聞かせた。

父親のみならず母親までも撃ち殺して、「ああ、男 東大、どこへゆく・・・・」








10「母捨記」

【息子】中西隆雄


寺山修司の編集していた詩集に応募し選考された森忠明の詩を生演奏で。以前昭和と共演したことのある大阪芸大の中西が客演。
学生服の中西と、Tシャツジーンズ姿のボーカル=三木が舞台上で並んで
「母さん、僕は帰らない!」
と叫ぶラストは時代を超えても同じ家出息子の思いを聞くようだった、との感想をアンケートでもらう。

text




三木(VO.)11「フットボールの規則による"幸福論"の試み」
【ホイッスラー】八尾建樹
【選手たち】出演者全員


ホイッスラーのルール説明から舞台に飛び出す選手達全員による、「ドロップキック」(生演奏)のダンスから始まる。
フットボールの隊列やプレイを基に振付られた。 ボールを持っている間、自分のことを1分間だけしゃべることができる、というルールで、 お客さんにもボールを回し、自分のことをしゃべってもらった。 最後は歌になる。




♪「話させてくれ、もっと」

話させてくれ もっと
話させてくれ もっと
嵐のように 怒濤のように
話させてくれ もっと
話させてくれ もっと
電車のように ピストルのように
ブルブルブルブル
黙っていると
ブルブルブルブル
死にそうだ
地獄めがけてドロップキック
ボールがわりに自叙伝を!





イッキ12「演説 そして孤独の叫び」
【革ジャンパーの男】イッキ



イッキ「そのとき俺は映画館の便所の中に隠れていた。」で始まる昭和のレパートリーをイッキが、八尾と同じく98年に引き続き二回目の挑戦。ボロボロになったアメリカ国旗を振り乱し「だがアメリカはきらいだ!」と叫ぶ詩。


戦争に向かってマッチ一箱の破壊、
解放された動物園の方から時代はゆっくりとやってくる、
時代は臆病者の象にまたがってゆっくりとやってくる、
そうだ、時代は象にまたがって世界で一番遠い場所、皆殺しの川におもむくくだろう、
ほろんでゆく時代はサーカスの象にまたがって、せめて聞かせてくれ、
悪夢ではないジンタの響きを、いいか、「時代よ、サーカスの象にその芸当を教えてやれ!」




初演時の昭和精吾


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