『仮面劇・犬神』1999
1999/012/10(fri)-11(sat) 渋谷ジァン・ジァン
【 作 】寺山修司
【構成・演出・出演】昭和精吾
【照 明】ジァン・ジァン
【音 楽】J.A.シーザー(「われに五月を」) 落合敏行(「犬神」)
【出 演】八尾建樹 石原秀文 イッキ 田中芳一
こもだまり 諏訪友紀 野口有紀 かないまりこ
【演奏・出演】犬神サーカス団=犬神凶子(Vo.) 犬神情次2号(G.) 犬神ジン(B.)犬神 明(Dr.) 
【協 力】オフィス・サエ Inter/Artists/Label/【gold】 月蝕歌劇団



黒子姿で諏訪ちゃんと(ジァン・ジァン楽屋)


昭和精吾事務所の、ジァン・ジァン最終公演『われに五月を・最終篇』+『仮面劇・犬神』が終わった。
初めてジァン・ジァンに出たのもこの二つの作品の抱き合わせだった。3年前のその時は、初めての黒子体験だったので、 その役割も楽しみ方もわからないまま、ただ昭和さんの演出の意図をくみ取ろうとするので精一杯だったのを思い出す。

10時劇場入り。私はいつもギリギリなので私が楽屋に入る頃には大抵みんな揃っていて、おのおの身体をほぐしたり、目を覚ましたりしている。身体を動かす為に、稽古着に着替えた後、朝食をとる(缶コーヒーとサンドイッチ)。
もう今日で最後だけれど、まだ納得行かないところがあるので女黒子3人のシーンを「あとで稽古しようね」と声をかけて身体をほぐし始める。早起きの日は、というか午前中から本格的に身体を動かす事なんて本番の日くらいしかないので、身体が起きるまでは丁寧にストレッチしてあげなければならない。いつも稽古でするメニューをゆっくりこなす。
少しして、スワちゃんと有紀ちゃんが舞台に来る。「まりちゃん、卒塔婆がさあ・・」とスワちゃん。どうも彼女は卒塔婆が苦手らしい。3人のところ、ひととおり頭から順番に返そう、と打ち合わせる。
演奏の犬神サーカス団のメンバーも、弦を張り替えたり準備をしていた。明さん「あとで文字遊びと黒子ひととおり合わせてもらっていいですか?」「もちろん、いいですよ」と快諾。身体をほぐしたり声を出し始めたりしてる間にちゃくちゃくと準備してくれた。 そしてサウンドチェック。犬神さんはたいてい♪廃墟の街 をやる。凶子さんはそのサウンドチェックとして歌う前には特別発声をしない。サウンドチェック自体がのどならしのようなものなのだそうだ。本番の曲♪人肉スープ、♪地獄の子守唄 を音響さんと一緒にチェックしたところで、最終日なのでみんなでわがままいって、犬神さんのオリヂナル曲リクエスト大会になる。♪あんたは豚だ(役者の間ではこの曲がかなり人気が高かった)、♪白痴など、朝っぱらからヘッドバンキングして元気を出した。
のち、犬神さんの台詞と演奏で振付した女黒子のシーン3つ(手袋・卒塔婆・懐中電灯)をひととおり合わせてもらった。
ひとつめの「変な子」はブラックライトのシーン。黒子は顔ももちろん隠しているので、白い手袋だけが見えている。照明の大村さんをつかまえて、ブラックライトをつけてもらう。昨日まであまり時間がなかったのでブラックライトでどういう風にみえているのか自分らで見ていなかった。せっかく時間があるので交代で見る。初日に見に来たお客さんはブラックライトのシーンは全部絶賛してくれた(笑えたりかっこよかったりしたらしい)。特にここに関しては「ディズニーランドみたいだった」とのこと。あんまり深く考えずに「ホーンテッドマンションみたいな感じなんだろうな」と思っていたが、違った、というか、見たら言ってた意味がよくわかった。手袋だけが6つ(3人×両手)、空中に浮いていて、ミッキーマウスみたいなのだ。ミッキーマウスが踊ってるみたいなのでそのあまりのギャップに大笑いする。「ちょっとこれおもしろいよ、ていうかすごいって」といって交代。ふたりも全貌をしって興奮する、というか笑う。ジンさんが「俺もこれどうなってるのか見たことない」というので三人バージョンをジンさんと大阪から手伝いに来てくれた中西くんの為だけにやる。ふたりも喜んでくれた。ずっと手話の形を使ってテレコで動いているミッキー手袋が、最後「あれは変な子だ!」のところでお葬式道標(手の形の矢印)になって(もちろん寺山さんに敬意を表して使った)ぴたっ、と止まる振りがある。それがなんだかハッとするのだ。ずっとずっと流れるようにうごいていた白い軌跡が、形をとる(しかも馬鹿正直に6つとも同じ形で止まる)のがなんだか、ドキッともするけど笑える。
それでみんなやる気を出して最終日だけどさらに稽古した。犬神ジンさんと情次2号さんが黒子の稽古につきあってくれた。演奏代わりに口三味線で黒子の曲を出してくれるので(茶化していただけなのかもしれないが)それに合わせて稽古を重ねた。スワちゃんは、他のはできてるのに卒塔婆だけどうしてもどこか間違えるので犬神家の二人まで一緒になって「スワちゃーん頼むよー」といってからかう。よーく見たら変な所があったので最終日だけどちょっと変えて、稽古。これで本番出来れば完璧満足だ。

夕食のお弁当を買いに行く。割と近所にお弁当やさんがあるので便利だ。コンビニでお茶を買って戻る。役者全員から次の回のチケットの返券と受付預かりを聞いて事務所に届ける。なんてしてる間にもう開場1時間前になる。開場時間から黒子4人はスタンバイなのでさっさとご飯を食べよう。そしてメイク。黒子だからメイクはほとんどいらないのだけれど、素顔で出る場面があるのでメイク。スワちゃんにおしろいをはたいてもらい完成。黒子の大仕事がやってくる。客入れだ。
客入れの30分間、黒子が4人、舞台上でじーーーーっとしている。その中央には蝋燭が一本点いている。開演時間のキューが来るとイッキさんがいきなり気合い一発「はっ!」と入って蝋燭の火を手で消す・・・といったもの。
一昨年は昭和さんご指名で私一人でやった。一回やっているので時間もつらさもなんとなく見当がついてて、気が楽。だが、他の三人(諏訪・野口・イッキ)は初めてなので、一応初回に経験者としてアドバイスはした。「絶対しびれるから、足の下に見えないようにタオルとか手拭いでお座布団したほうがいいよ」「しびれてきたらゆーーーっくりごまかしごかまし体重移動したら少し楽」「それでも絶対しびれると思うから、そうなっても驚かないで、しびれてない方の足で立てばいいから」。
・・・一昨年、過酷だからか時間がもったいないからか、さすがに稽古場ではその稽古しなかった。家でもリハーサルする気になれなくて、1ステージ目で初めて30分黒子座りした。しびれたなんてもんじゃなかった。腕枕にしてうたた寝しちゃった時の自分の腕が「モノ」みたいになってたのとか、こたつで横向きにうたた寝してて電話が鳴ったから出るために起きあがって歩こうとしたら下にした足がしびれてて真横にすっころんじゃった時の「モノ」みたいになった足によく似ていた。どっちもうたた寝か。今度は寝てないけどしびれてたってことは結論=普通に立とうとしたらすっころぶ。蝋燭の火を消すためには立ち上がらなくてはならない。初めてなのであと何分ぐらいしたら終わるのかも分からない。下にしてる足はもう「モノ」化していた。ということは立ててる足だけが頼りだ・・・とじーっとしながら頭の中はぐるぐるぐるぐる回っていた。キッカケが来た。オペ室でライターをくるくる回した。「立てるかなあ・・」と不安ながらも「はっ!」と言って立ってみた、ら立てた!暗転した!この蝋燭立てをはけなくちゃ!でも歩けない!ということで思いついたのは・・・
「もししびれちゃったら舞台端までお尻で居座って、あとはケンケンしたら動けるから」。
今回の初日、私はさすがに2回目だけあって、悠々歩いて帰った。「おつかれさまです」と楽屋に入ると他の3人はまだ来ていない。スワちゃんが戻ってくる。歩いてきたのでアドバイスが効を奏したかと思ったら「ひどい!」とほうほうの体で奥の椅子に座る。お座布団し忘れたという。そりゃしびれる。と、イッキさんが戻ってくる。黙って椅子に座り込みうつむいてしばし無言。「どうだった?」「・・・まじかよ!!」。お座布団したけどしびれたらしい。ところが野口さんが帰ってこない。迎えに行こうかと 思ったところで帰ってきた、というか這ってきた(笑)。「大丈夫?」と近寄ると無言で首を振った。「しびれてる?」「いや、もう、ダメです、触っちゃダメです」と意味不明の事をいってやはり座り込んでいる。近寄るだけでしびれた足に触られた気分になるのか「うあー」と言う。しびれすぎて笑っているらしい。
そうやって本番が始まった。(続く)



【写真公開】



本番前の舞台で、演出中の昭和精吾。
「角隠しはもっとこう深くかぶれないかなあ」
「固定できないからずれてきてしまうんですよ」
花嫁役の野口有紀、母親役のこもだまり。奥には犬神サーカス団の楽器も見える。










『犬神』のラストシーン。結婚式の朝の月雄(かないまりこ)と犬のシロ(操る黒子は八尾建樹)。
「もしぼくが隠れてしまったら、誰かがかくれんぼの鬼になってぼくを捜しにきてくれるだろうか?」


かくれんぼの鬼とかれざるまま老いて誰をさがしに来る村祭







犬田家の崩壊(エピローグ)。倒れている仮面劇の登場人物たち。



listへ戻る

topへ戻る