TEXT:昭和精吾所蔵原稿より
引用部(斜体)TEXT:永山則夫『無知の涙』(合同出版)より
『捧ぐ! 永山則夫への70行』 寺山修司
昭和43年10月10日 | 東京プリンスホテル中庭 |
被害者 | ガードマン中村公紀 27歳 |
ピストル22口径弾倉回転式 | 弾丸2発 |
遺留品 | 米国製ハンカチ |
被害品 | なし |
被害者の言葉 | なし |
昭和43年10月14日 | 京都八坂神社境内 |
被害者 | 警備員 勝美留次郎 69歳 |
ピストル22口径弾倉回転式 | 弾丸4発 |
遺留品 | 米国製ジャックナイフ |
被害品 | なし |
被害者の言葉 | 「17、18歳の小柄な少年に撃たれた」 |
昭和43年10月26日 | 函館市郊外七飯町タクシー内 |
被害者 | 運転手 斎藤哲彦 31歳 |
ピストル22口径弾倉回転式 | 弾丸2発 |
遺留品 | なし |
被害品 | 売上金8700円 |
被害者の言葉 | なし |
昭和43年11月5日 | 名古屋市港区七番町タクシー内 |
被害者 | 運転手 伊藤正昭 22歳 |
ピストル22口径弾倉回転式 | 弾丸4発 |
遺留品 | なし |
被害品 | 売上金7000円、腕時計 |
被害者の言葉 | 「頭が痛む、病院に連れてってくれ」 |
昭和44年4月7日 | 東京都渋谷 一橋スクール・オブ・ビジネス |
被害者 | ガードマン 中谷利美 22歳 |
ピストル22口径弾倉回転式 | 弾丸3発 |
遺留品 | なし |
被害品 | なし |
被害者の言葉 | わからず |
遺憾に思う心あり
されどその実は疑わしきかな
我これを何としよう
身に重き罪
わが小さき心に耐えかねるなり
ろうそくの灯にて
風あらば消えゆく思い
空の果てまで問うなり
永山則夫への70行
俺のどこかに二十歳がある
俺のどこかに二十歳がある
飢えて追いつめられた 貪欲な野良犬よ
俺のどこかに二十歳がある
高倉健がものの見事に斬り死にして
スティーブ・マックイーンが笑みを浮かべて逃走する
映画館でつちかったつぎはぎだらけの俺の思想
そしてもろくも崩れ去った惨めな幼い賭け
俺のどこかに二十歳がある
いつも心の片隅に苦しい言葉を何度も何度もくりかえし
地下鉄に揺られながらはるかなるマルコ・ポーロを思い出す
俺のどこかに二十歳がある
東京よ 尊大な群集の街 タンツボの街よ
雨の日よ
東京よ メカニックなたたずまいの懐でこまぎれの肉の欲望をばらまいている俺
俺のどこかに二十歳がある
東京よ 俺の二十歳は涙の汚物なのか
東京よ 俺の二十歳はこんなにやさしい
俺のどこかに二十歳がある
砂漠のど真ん中に放り出されても砂を食って生きてゆく
スフィンクスの謎の東京戦争
奥浩平は書いた二十歳
そして翌年死んだ
俺のどこかに二十歳がある
拳銃よ 拳銃よ 拳銃よ 拳銃よ
俺のどこかに二十歳がある
魂の地中海はるか彼方に捨ててきた書物
その名のラスコーリニコフよ
俺のどこかに二十歳がある
街の灯よ 見れば切なく燃えており
わが去りし言葉残さん カモメよ
俺のどこかに二十歳がある
俺の殺したガードマン達のマイホーム
夜明けの屋根裏で酔いしれてなお語る
浪漫的亡命者にせトロツキー
俺のどこかに二十歳がある
貞子よ その干し忘れた洗濯干し場のシミーズの汚れよ
君の澄んだ瞳は茜のなごりを
まだ西の空に求めているのだろうか
俺のどこかに二十歳がある
貞子よ インスタントコーヒー一杯分の幸せ
お前の目元からはまだ東京タワーの灯がもれているのだろうか
俺のどこかに二十歳がある
孤独な街路の無数の灯の歴史
ビレッジ・バンガードよ
深夜スナックのさみしいスパゲティー・ナポリタンの孤独よ
貞子よ 笑おうとして泣いてしまった女よ
あの晩のやくざ映画は最高だった
俺の二十歳よ それらしきものよ
大人ぶりたい二十歳番外地 無知の魂よ
やがて北国の港でドラの音がするだろう
それはまた暗くさみしい冷たい牢獄へ向けての俺の船出よ
俺のどこかに二十歳がある
俺のどこかに二十歳がある
俺のどこかに二十歳がある
俺のどこかに二十歳がある
■稽古日誌